「所変われば、味変わる」 。日本とフランスの食の違いははっきり言って、太陽と月、火と水というぐらいの違いがあります。しかし、両国とも「食」は非常に重要な位置にあるようで、「食」に対するエネルギーの入れ方は、日仏ともほぼ同格と言えるでしょう。
今日は、フランスと日本の文化の違いを「食」に絞って掘り下げてみたいと思います。
朝、昼、晩の食事
朝食 Petit Déjeuner
フランス人は、一般的にほとんどみんな朝食を取りません。よく食べても、パン(バゲット)とコーヒー、主にカフェ・オ・レだけ。中には、エキソプレッソのみという人もいます。友人が日本へ初めて来たとき、朝食に味噌汁、焼き魚、卵などがあるのを見てびっくり。日本人って朝からこんなに食べるなんて知らなかったと感嘆。フランス語で朝食を« プチ・デジョネ »と言います。プチは「小さい」、デジョネは「昼食」という意味で、要するに「小さな昼食」なわけです。「小さな」とつくだけあって、フランス人にとって朝食は ごく簡単な食事という感覚なのでしょう。日本へ来た友人が日本の朝食をみてびっくりする意味がよくわかります。
昼食 Déjeuner
さて、昼食の時間。今でこそ、フランスでは昼食時間は1時間が普通ですが、当時私が働き始めた時分は、まだしっかり昼食時間2時間という時代でした。2時間もかけて昼食をとるなんて日本では考えられないことですが、それもそのはず、「小さな朝食」を取っただけなので、その反動で昼食に時間を掛けるのだと、当時の私は真剣に信じていました。カンティーヌ(社員食堂)では、オードブル、メイン、チーズ、デザート、最後にコーヒーというのがクラシックでした。こんなに食べた後どうやって仕事に戻れるのかいつも不思議でしたが、「住めば都」というより、「慣れれば都」で、2時間の昼食もペロッと平らげていました。しかしながら、今ではさすがにみんな時間がないので、オードブル+メイン、またはメイン+デザート、最後にコーヒーというのが一般です。
夕食 Dîner
フランスでは、夕食は家で食べます。何か特別な日(バースデーや結婚記念日など)以外は、あまりレストランへは行きません。理由は単純。フランスのレストランは高価だからです。さて、日本と大きく違う点は、夕食時間です。夜7時に夕食につくという家庭は、ほとんどありません。この時間はアペリティフ(食前酒)の時間だからです。アペリティフとは、食事の前に簡単なつまみ物と一緒にアルコールを飲むことです。ポテトチップス、ソーセージ、ピーナッツなど、相当カロリーの高いつまみ物の上にアルコール、私は個人的には白ワインを飲みますが、中にはパスティス(Pastis)という40~45度もあるリキュールを水割りにして飲む人がいます。ご存知の通り、フランス人は会話大好き民族なので、アペリティフに最低1時間は取られてしまいます。本番の夕食は、早くて20時、時には21時というのはざらです。オードブル、メイン、チーズ、デザートは基本ですが、最近ではさすがにオードブルを削るケースも出てきました。どちらにしても、夕食が終わる時間は22時を過ぎることは珍しくありません。(とりわけ金曜日の夜など) 翌朝、朝食をほとんど取らない(というより喉を通らない?) のは、こういうところに原因があるのでしょう。
食感の違い
バターと生クリームが大好き
日本料理はほとんど油を使いませんが、フランス料理は油やバターはもちろん生クリームたっぷりです。前者は、食材を活かすことを良しとするが、後者は、食材を変えてしまうことを良しとする感があります。しかしながら、近年日本の懐石料理に影響を得た「ヌーベル・キュイジーヌ」が生まれてからは、さすがにフランスの食感も食材を活かした料理に傾きつつあります。しかし、これはあくまでも星付きレストランでの世界。一般家庭では、相変わらず、バターと生クリームのコッテリソースが大好きです。
肉食vs魚食
私の感想ですが、この原因は肉食と魚食の違いからきているのだと思います。日本は魚がメインです。魚にバターや生クリームを使ったソースをかけると、魚自体のもつ微妙な味が死んでしまいます。フランスにも魚料理はたくさんあります。代表的なのが「舌ヒラメのムニエル」。正直なところ、私は日本のシンプルなヒラメの焼魚の方が美味しいと思います。フランス料理にソースが欠かせないのは、やはり肉食が中心だからでしょう。魚は生でも食べられますが、肉を生で食べるのは、牛肉の一部の料理(タルタル、カルパッチョなど)を除いて存在しません。肉はそのままでは何か足りない?そこで登場するのが、ソースなのです。ソース味で、肉の味を自由自在に変えてしまうことに美味しさを感じるのがフランス人のようです。
舌ざわりの感覚がわからない!?
もうひとつ、日仏の食の大きな違いに食感があります。フランス人は、どうしてか舌ざわりという感覚が解らない人たちです。だから日本の豆腐の良さがわかりません。豆腐の美味しさは、味そのものというよりも、豆腐が口の中に入ったときのフワッとした感触を味わうところにありますよね。フランス人にはその点がよく解らないらしいのです。因みに、「アルデンテ」というイタリア人独特の食感は、非常に日本人のものと意気投合するところがあります。フランスの隣りの国なのにどうしてこんなに違うのか不思議です。
食欲の違い
豚の頭・・・
フランスの市場の食肉店でよく飾られているものに、豚の頭があります。鼻の先に花などを飾っているところもあります。フランス人はこれを見て食欲をそそられるらしいのです。狩猟時期の秋になると、他に猪や鹿の頭なども店先に並び始めます。
感覚が異なる
私は思わず顔をそむけてしまいますが、フランス人には当たり前の光景なのです。こういう風にみると、食欲の原点の違いに圧倒されますよね。仏教徒国の日本人には、豚の頭をみて食欲を煽られることはほぼ皆無でしょう。しかし逆に、フランス人からみれば、日本の例えば「鯛の活き造り」なんて信じがたい食べ方らしく、食欲ゼロの世界だそうです。
こうしてみていくと、「所変われば、食欲も変わる」のがよく理解できます。
マルシェ(市場)に行こう!
日仏食文化の違い、少しだけご理解いただけたでしょうか?どの国にも「食文化」というものがあり、それはその国の長い歴史によって培われたものです。私は外国へ行くとまず、マルシェ(市場)へ行くのが大好きです。そこで見たり、触ったり、匂いを嗅いだりすることで、臨場感のあるありのままの民衆の姿を知ることができるからです。それだけ、「食」はその国を知る最も手近な文化なのかもしれません。
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