日本では、フランスの観光都市というとまずパリを頭に浮かべますが、パリだけがフランスではありません。「パリを出ると、そこはフランス」と言うほど、地方こそフランスにしてフランスらしさがあると言えるでしょう。フランス人自身も自国の地方観光が大好きです。
さて今日は、そんなフランスの地方の中でも、私自身が大好きなノルマンディー地方を紹介します。
ノルマンディー上陸作戦
パリに住んでいて、ある日突然無性に海が恋しくなることがありました。東京だと海が近いので、突然海が見たくなったら簡単に湾岸まで行けますよね。つくづく日本は「海の国」という気がします。
海に近い街
さてパリから一番近い海岸があるのが、ノルマンディー地方です。鉄道でほぼ2時間もあれば直行できますし、車でなら1時間半とパリからはとても手近な所です。日本では第2次世界大戦の「ノルマンディー上陸作戦」で知られている地方ですが、この地方の代表的な観光スポットといえば、世界でも有数な世界遺産モン・サンミッシェルやアルセーヌ・ルパンで有名なエトルタ、また印象画家たちを魅了したオンフルールなどの名前を聞いた方も少なくないはず。この他にも、映画「男と女」の舞台となったドーヴィル、モネの家で有名なジヴェルニー、フランスの誇る北の大港湾都市、ユネスコ世界遺産にも指定されたル・アーブルなど、確かにノルマンディー地方には観光スポットが山ほどあります。しかしながら、ノルマンディー地方の魅力は、そんな観光スポットだけではありません。
パリジャンの大移動!?
パリジャンたちはパリが大好きですが、短い休暇や週末になるとパリの喧騒から離れて地方へ大移動します。ですので、パリから最も近いノルマンディー地方の田舎や海岸沿いにセカンド・ハウスを持っている人がとても多いのです。まさにパリジャンたちのノルマンディー上陸作戦といった勢いです。車や鉄道での移動が簡単で、なおかつ庭付きの家が非常に安価で購入できるという理由が原因です。でもセカンド・ハウスがなくても大丈夫。フランスでも日本同様、民泊ブームが大流行、快適な滞在が実現できます。
パリジャンがリフレッシュできる地
さて、ノルマンディーのどこがそんなに魅力的なのかというと、意外に何でもないところに理由があるのです。ノルマンディーの主な観光スポットといっても、ほとんどの所はほぼ全部観光してしまったパリの人は、「何もしない」ということを目的にノルマンディーへ行きます。何を隠そう、私自身もその種類の人です。
ボケーと過ごせる幸せ
「何もしない」というのは少々大げさですが、要するに何もしないで海岸や芝生に寝そべって、ボケーッと海を眺めたり、目的もなく野原を散策したり、森林浴をしたりするためのノルマンディーなのです。自然に溶け込んで、パリのメトロの混雑や車の排気ガス、まして日々の仕事のストレスなどをノルマンディーにいる間は一切忘れる、頭の中を空っぽにするためです。まさに心身ともどもリフレッシュの時間。こんな風に、思わずパリジャンとなって、ノルマンディーを観光してみるのも面白いかもしれません。
印象派画家の想いが残る
ノルマンディーの海は、英仏海峡に面した「北方の海」です。太陽の光があまり強くなく、海の色が限りなく淡いブルーです。真夏には海水浴を楽しむ人たちもいますが、どちらかと言えば海水浴に向いている海岸ではないような気がします。私は個人的には海水浴というのはどうも苦手で、どちらかといえば海岸を散歩する方が好きです。そういう意味では、ノルマンディーの海はとても適しています。海岸沿いを歩いて行くと、印象画家たちがどうしてこの地方を競って絵にしたのかよく理解できるはずです。海と空と崖の色がどんどん変わっていく印象を、絵に残したくなる彼らの気持ちがよく伝わってくるはずです。
海の幸、野の幸が豊富なノルマンディー
当然ノルマンディーは海が近いので、海の幸が豊富です。最も代表的なのが、ムール貝。ブッショ(Bouchot) という名のムール貝は、養殖貝なので年中食べられます。とりわけ、モン・サンミッシェル産のムール貝は、原産地統制名称(AOC)がついているほどです。大きさは小ぶりですが、中の身はぼってりとした柔らかなオレンジ色。主に白ワイン蒸しにしたムール・ア・ラ・マリ二ェール(Moules à la Marinière) としてフレンチ・ポテトと一諸に食べるのが一般的です。子供にも大人にもフランス人の大人気の料理です。
ワインを片手に
秋半ばにもなるとニシンが豊富。ノルマンディーのあちこちの海岸都市では、「ニシン祭り」が開かれます。街の至る所でニシンを焼く煙や匂いがして、まさに海岸情緒そのもの。また冬が近くなるとホタテ貝と牡蠣の季節。フランスでは、牡蠣は生で食べるものというのが当たり前です。プラトー・デュ・ラ・フリュイ・ドュ・メール(Plateau de la Fruit de Mer) は、牡蠣を中心にエビ、カニ、ハマグリ、ラングスティーヌなど様々な貝類を氷の張った大きな皿に盛り合わせて食べる海岸沿い典型の一品です。もちろん、きりっと辛みの白ワインをお忘れなく。私は、サンセール(Sancerre) またはシャブリ(Chablis)をお勧めします。前者はロワール、後者はブルゴーニュのワインです。微妙な違いを知るには、新鮮な魚介類が最高です。(Bon Appétit !)
カマンベールのふるさと
次にノルマンディーの食べ物で忘れてはならないのが、チーズです。ノルマンディーと言えばチーズ、チーズといえばノルマンディーというほど、ここノルマンディー地方原産のチーズは有名です。日本でもみんなが知っているカマンベール(Camembert)は、ノルマンディーのチーズです。それもそのはず、ノルマンディーは草原の国。いたるところで牛が草を食べている光景に出くわします。見渡す限りの起伏のある広大な草原を目前にすると、一部では「ノルマンディーのスイス」(La Suisse Normande)と呼ばれているのが、なるほどとうなづけるはず。
りんごも豊富
最後にノルマンディー代表の食べ物は、リンゴです。ノルマンディー地方はリンゴの国で、リンゴ園がいたるところにあります。小麦粉にバター、砂糖が絡まった甘酸っぱいリンゴのタルトは、一度食べたら何度でも食べたくなる私の一番お気に入りのデザートです。また、リンゴからできるアルコール、カルヴァドス(Calvados)が有名です。それにシードル(Cidre)があります。日本ではサイダーとなって定着していますが、ノルマンディーのシードルは日本のサイダーとは似ても似つかないリンゴ飲料水です。クレープを食べるとき、必ず一緒に飲むのが一般的。
旅に休息にぜひ!
ノルマンディー地方でした。せっかくパリまできたなら、それほど遠くないノルマンディーへぜひ一度お訪ねください。滞在しない1日観光でも構いません。パリでは味わえない、もうひとつのフランスの姿を見ていただけるはずです。
因みに、ゴルフファンの方に見逃せないのがノルマンディーです。お隣りのイギリス同様、草原の国なので、ゴルフにはピッタリです。もちろん、ゴルフ場はあちこちにあります。英仏海峡を見渡しながら、スイングする豪快さは忘れがたいノルマンディーでの思い出となるでしょう。
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