インドネシアの日系企業で3年間勤務していたことがあります。主に駐在員の補佐を行い、駐在員と地元の社員の間の仲介役をしていました。インドネシアは、国民の約9割がイスラム教徒と言われています。日本では仕事に宗教や個人的な信条を持ち込むこと自体がタブーとされていますが、イスラム教徒の日常生活はイスラムの教義の上に成り立っています。ここでは、イスラムの人たちと働く中で学んだことについてお話しします。
礼拝について
1日5回の礼拝
イスラム教には、1日5回、礼拝が義務付けられているという事は多くの人が知っていると思います。具体的には、午前4時半ごろに明け方の礼拝、12時ごろに正午の礼拝、午後3時ごろに昼間の礼拝、夕方6時ごろに日没の礼拝、夜7時ごろに夜の礼拝を行います。
つまり、5回の礼拝のうち、少なくとも2回は勤務時間に重なります。夜勤や残業となればそれ以上の礼拝が重なってしまいます。
礼拝の時間は休憩時間
私が働いていた工場では、イスラム教徒のお祈りの時間は休憩時間になっていました。そこで、イスラム教徒の社員は社内に作られた礼拝堂でお祈りをしていたのです。金曜日には「金曜礼拝」があり、男性はモスクを訪れて集団礼拝を行っていました。この時には休憩時間も通常より少々長めになり、その間は職場も取引先も機能しません。私も、車での移動中に運転手から「ちょっとお祈りしてきます」と言われ、待たされることもありました。
どれだけ大切な仕事をしていても、時としては礼拝によって中断されてしまうこともあります。急いでいる時などは戸惑ってしまうこともあるかもしれませんが、イスラム教徒が多い国で働く以上はこの習慣を理解して尊重することが大切です。私も、イスラム教徒のお祈りの時間は休み時間と割り切るようにしていました。
断食月(ラマダン)について
日の出から日没まで
イスラム教には、1年に1度、ラマダンと呼ばれる断食月があります。この1ヵ月は、イスラム教徒は日の出から日没まで、飲食や喫煙を一切行いません。イスラム教徒が多かった我が社では、社員食堂は非イスラム教徒など断食をしない人たちのために開いてはいましたが、イスラム教徒に配慮し、布で覆われていました。そこが食堂であるという事は誰もが知っているのですが、食堂が目隠しされていたのです。断食がルールとは言え、空腹を感じないわけではないのですから、その配慮は素晴らしいと感じました。そして私たちも、イスラム教徒の前で食事の話をしたり、堂々と食堂に入って行ったり、というような無神経な行動はしないように気を付けました。
お腹が空くイスラム教徒
とは言え、このラマダンの間は多少なりとも仕事に影響が出ることもあります。イスラムの人たちは夜明け前に起きて食事をしているため、寝不足になります。そのために集中力を欠いたり、イライラしたり、という社員もいました。
1日の断食が日没礼拝の後に終わります。夕方6時ごろの日没の礼拝の時間をブカプアサ(断食明け、の意)と呼びます。ブカプアサの時間はイスラム教徒にとってはとても大切で、来客中や会議中、極端な場合は上司からのお説教中であったとしても、時間が来たら体が水分や食べ物を取れるよう、気を配る必要があるのです。仕事も大切ですが、彼らの健康面の方が大切ですからね。
また、ラマダンの間はあまり感情的になってはいけないと言われています。そのため、仕事中にイスラムの社員に対して頭にくることがあったとしても、なるべく冷静な態度をとるように心がけなければいけません。
食べ物について
ハラールマーク
イスラムの人たちが豚肉とアルコール類を口にしないという事は既に有名の話ですね。イスラム教徒と外出する際には、認証機関から認定されている食品に添付されるハラールマークがあるお店を選ばなければいけません。
日本にはイスラム教徒があまりないため、意識することがないかもしれません。しかし、日本からお菓子などのお土産を買ってくる場合も、豚肉が原材料として使われている可能性があるゼラチンやポークエキスなど、豚由来のものが含まれている可能性があるものはすべて注意が必要です。豚肉を避ければ良いという人もいますが、中には、例えば豚肉を挙げた油で炒めた野菜もダメ、等という人もいます。そのため、細心の注意が必要です。
イスラム教徒が喜ぶ日本のお土産
イスラムの人に何を買ったらいいのか悩むかもしれません。私が日本から買ってきてインドネシアの人たちに喜んでもらったお土産は、エビのお煎餅や甘納豆です。
インドネシアでは、甘い味付けの豆は珍しいようで、甘納豆は特に好評でした。また、最近では空港のお土産売り場でもハラール認証のお土産菓子のコーナーがあるそうですから、こちらをチェックしてみても良いですね。
意外と知らないイスラム教
日本人にとって、イスラム教はなんだか決まり事が多くて小難しい、まだまだなじみ深いとは言い難いイメージがあるかもしれません。そして、イスラムの人と一緒に働くのは大変そうだと思っている人もいるかもしれません。しかし、私たちのちょっとした配慮や気遣いで、イスラム教徒も自身の宗教観が尊重されていることを感じ取り、きっと互いに働きやすい環境になると思います。
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