週間パリニュース⑥フランス老人ホームの現状

2月です。あっという間の1月でした。皆さん、お元気でしょうか?
日本には「1月行く、2月逃げる、3月去る」という表現がありますが、ここフランスでも同様。「えっ、もう2月?」という会話をよく耳にします。
さて、今日の話題は、「老人ホームのストライキ」、「バーン・アウト(過労)」、「ユダヤ人排斥」の3つです。

フランス老人ホームの現状

日本と同様、フランスも高齢化のすすんだ国で、数々の社会的な問題をかもし出しています。問題は高齢化にあるのではなく、避けがたい高齢者の心身依存の対応が問題だという声も上がっています。要するに「元気で長生き」が理想なわけですが、現在のフランスの高齢者たちは「依存で長生き」というのが現実です。
そんな中、つい最近、老人ホーム(Etablissement d’Hébergement pour Personnes Agées Dépendantes) 、略してEHPADの関係者らによるストライキが実施されました。

 制度化した虐待施設

外観から見る限り、大抵のフランスの老人ホームは、どこも清潔でモダンな建物内にあり、ゆきとどいた芝生と木立の公園があって、小さな天国のごとき雰囲気です。しかし、現実はその正反対。「制度化した虐待施設」とまで呼ばれた悪名高き老人ホームが多いのです。
具体的な例として、シャワーは週に1回切り、尿便処理は超最低限度、寝具の取り換えは月に1度あるかないか、食事のサービスは流れ作業式でその質に至っては、美食国フランスとしてあまりにも恥ずかしい、というのが現状です。

 消極的な政府予算援助

さて、このような老人ホームにおけるサービス不全の原因は、どこにあるのかというと、単に人事不足という、余りにも単純すぎて情けなくなる理由からきています。ひどい施設になると、20人の養老者に対し、たった1人のヘルパーというところもあると聞きました。
そこで、高齢者介護施設関係の労働組合、実際に施設で働くヘルパーや看護官たち、また関係家族らが、この1月30日、「現状解決、人事増員」などを求める抗議デモを行いました。
これに対し、仏厚生省では500万ユーロの予算増額を発表しました。しかし、たかが500万ユーロでは、まるで山火事を小さなホースで消そうというようなもの、抜本的な問題の解決にはつながらないとする関係者の不満と不安の声は高まる一方です。
以前に紹介した刑務所のストライキ同様、消極的な政府予算が原因となる社会問題が、老人ホームにまで広がっているのかもしれません。

 

フランスでも過労問題?!

「とうとう、フランスにも上陸?!」と日本人の私は驚嘆。日本とは約20年以上遅れ?のこの現象、フランス語では、Syndrome d’épuisement professionnelと言いますが、何故かフランスでは一般に英語の「バーン・アウトBurn-Out (燃え尽きる)」と呼ばれています。(英語嫌いのフランス人にしては珍しい)
さて、この過労問題が、今フランスで社会問題として話題のニュースとなっています。

年間10000人が対象に

1月16日、仏社会保障機関は「労災事故」について次のように発表しました。
「2016年度のフランスにおける労災事故は、全体の1.6%を占め、人数にすると約1万人の犠牲者が出ている。この数字は今後上昇にある傾向。この数字の半数以上が「精神的な要因による労災事故」というのが特徴的。」
要するに、過労からくるストレスや疲労による事故というわけです。そこでこの度、国会で改めて「バーン・アウト(過労)に起因した労災処置の見直し」を話し合うこととなりました。というのも、現在のところフランスでは精神過労は、職業病として考慮されておらず、ほとんどがただ単に「神経病」というカテゴリーに入り、個人的な病気とみなされていて、決して職業と結びついた病気とはなっていないというのが現実です。つまり、社会保障上「過労病」がしっかりと位置づけられていない、非常に曖昧な病気なのが問題だという指摘です。

 過労病とは何かを知ることが先決

過労病に関して国会で議論される主な内容は、「過労精神病」をもっと深く世間に知らしめ、職業病として認めるように制度化するしなければならない、というのが今回の国会で議論される主な目的です。その最初の手段として、具体的に「仕事場の健康的な精神を育成する」公的機関の設立、とのことです。
とうとうフランスにまで上陸した「過労問題」、さて、どこまで解決するやら・・・。フランス人によくありがちな「理想は高く」、「現実は低く」にならないことを陰ながら願っております。

 

根強いユダヤ人排他主義

ヴァル・ド・オヮーズ県、サルセル市で、8歳の男の子が数人の少年グループに襲われました。15歳ぐらいの少年グループが、男の子を地面に叩きつけて殴る蹴るの危害を与えたのです。犠牲者の男の子の証言では、暴行中少年らは一言も口を開かず、何も盗まなかったということです。

 「キッパ」を着けていた・・・・

さて、ただ襲われたというなら、これほどメディアで取り上げられなかったかもしれません。残念ながら、フランスではこの種の事件はよくあることです。問題は、男の子が「キッパ(Kippa)」を着用していたことにあります。「キッパ」とは、お祈りの際に髪を隠す習慣から、ユダヤ教徒の男性が頭の頂点にかぶる、というよりも載せる感じの小さな円型の帽子のことです。日本にはユダヤ人があまりいないので、「どうしてこんなことに?」という疑問をお持ちの方もいるでしょうが、ヨーロッパでは今でも尚、ユダヤ人排他主義が根強く生きているのです。サルセル市は、ユダヤ人が多く在住する街で知られ、当地で今年に入ってからこのようなユダヤ人を襲う事件は、すでに2件目です。

 兄弟のような宗教なのにどうして?

ご存知の通り、ヨーロッパの主要宗教はもちろんキリスト教ですが、次に多いのがイスラム圏からの移民、またはその子孫によるイスラム教です。ユダヤ教はユダヤ人だけが信仰する宗教なので少数派ですが、ヨーロッパの歴史上、かなりの信仰者がフランスに在住しています。さて、この三大宗教は、どれも旧約聖書という信仰の共通点があります。全く関係のない日本人の私からすれば、兄弟のような間柄の宗教という感がありますが、だからこそ、いがみ合う要素が多いのかも?とも思えます。似ていると腹が立つ?冗談のような話しですが、かなり深刻化した問題なのです。

 21世紀から再生した反ユダヤ主義

しかし、この種の宗教問題が真剣に表面化したのは、21世紀に入ってからです。アルカイダ・イスラム過激派の攻撃、あの壮絶なニューヨークのツインタワーの消滅は、2001年9月でした。21世紀の開幕と同時に、イスラム過激派による大々的な攻撃が始まった、正に最初の事件でした。
以降、欧米諸国を中心に繰り広げられた数々のイスラム過激派によるテロ事件。彼らは、キリスト教徒のみならず、ユダヤ教徒に対しても容赦なく危害を加えてきました。中近東諸国のイスラエルに対する嫌悪感は、並大抵のものではありません。ユダヤ人に対するテロ事件数は増える一方です。

 双生児のような宗教と権力

こうしてみていくと、根底に流れる問題は、宗教というよりも政治・経済・文化的権力が大きな理由のような気がします。欧米諸国に対するイスラム過激派の宣戦布告の裏には、宗教の名の下に、総体的な権力、つまり前者の政治・経済・文化的自尊心や自立心を取り戻そうとする動きからくるのかもしれません。日本ではあまりピンとこないかもしれませんが、宗教と権力の関係は、背中で繋がった双生児のごとく、紙一重の関係です。
幸いフランスでは、フランス革命以降、世俗主義・正教分離原則が色濃く反映しています。しかしながら、エトランジェの私には、今回のようなユダヤ人に対する排斥行為があるのを見ると、フランス人は理性では理解していても、感情的にはまだまだ受け入れかねている?、という感じがしますが、皆さんはどう思われますか・・・?