フランス生活20年!パリ通信⑯フランスの宗教

フランスには、国教というものがありません。信仰の自由を重視し、特定の宗教を国が優先することがないということです。それでも、フランスはキリスト教、特にカトリック教徒の割合が最も多いので、伝統や習慣はカトリックに準じています。ノートルダム寺院を代表するようなにフランスの歴史的重要建造物は、カトリックの教会がほとんどです。さて、今日はフランスの宗教についてもう少し掘り下げてみましょう。

フランスの「ライシテ」とその矛盾

一般にフランスでは、宗教は公共の場では表示してはならないものと法律で定められています。 (1905年12月9日付正教分離法) 各人の宗教的信仰は各家庭で行われるもので、決して公共の場で表示するべきものではない、というのが基本です。これを「ライシテLaïcité」と呼びフランス革命以降定着した考えです。要するに、「正教分離主義」を合法化した結果でもあります。ですので、イスラム教徒のスカーフ問題(イスラム教徒の女性は髪を隠さなければならないというイスラム教の規則から起因する問題)は、フランスではよく喧々諤々の論争を巻き起こしています。こういう問題は、イギリスには見られない現象で、例えばインド出身のターバンを巻いたポリスマンを見かけますが、ごく普通に世間では受け入れられています。しかし、フランスでは、学校、役所、公共の仕事場や施設などでは、個人の宗教を表明することは厳格に法律で禁じられているのです。

 やっぱりカトリック!?

さて、先のライシテの話しに戻りますが、こうして厳格な正教分離を唱えつつも、カトリック教的要素は公に人々の日常の生活の中にしっかりと浸透しており、私の意見では「ライシテ」精神よりかなりかけ離れているのでは?という感があります。その典型的な例が、フランスの祝祭日です。フランスでは年間を通じて公式な祝祭日は11日間ありますが、その半数以上がすべてキリストにまつわるものです。日本で「仏」にまつわる祭日ってありますか?
真にライシテを誇るフランスなら、ここからすでに道に迷っているような気がするのですが、皆さんはどう思われるでしょうか?

フランスの穏健イスラム教徒の不安な状況

フランスには、カトリック教徒の他にもイスラム教徒、ユダヤ教徒、プロテスタント教徒、何と仏教徒も存在します。(因みに蛇足ですが、フランスはヨーロッパで最も仏教徒の多い国です。) 各々のパーセンテージを見ると、次のようになります。
カトリック教徒:65% イスラム教徒:7% ユダヤ教徒:1% その他:2%     (ifop 仏世論調査2011年ウィキペディア抜粋)

 イスラム教に対する不安

信仰自由主義の下、フランスではもちろんどの宗教を選ぼうと何ら問題はありません。ただここ最近、イスラム教徒過激派によるテロ事件続出のため、イスラム教徒に対する懸念と不信感を抱く人々が如実に増えています。それに追い打ちをかけるように、移民排他、特にアフリカや中近東などからやってくる移民に対する排斥運動の中心的役割を果たしている極右翼政党の大幅な躍進は、イスラム教徒ではない私でさえ、不安な気持ちを隠しきれないこの頃です。

 極右派の台頭

昨年の仏大統領選の2回目の決戦投票で勝ち残ったのは、極右国民戦線(Front National)のル・ペン氏 と若い中道左派(La République en Marche)のマクロン氏でした。大統領選の最終決戦投票で国民戦線の党首が残ったのは、2002年のジャン・マリー=ル・ペン氏が初めてでした。その後、彼の娘マリーヌ=ル・ペン氏が国民戦線の党首として後を継ぎましたが、父親よりも巧みな政治的政策で、この度の大統領選の最終決戦まで勝ち残ったのです。この背景には、フランスにおける宗教の政治的役割の影響があるのを否定できません。フランスでは、日本では想像できないほど、宗教的要素が政治政策に多大な影響を与えています。その最も犠牲になっているのが、穏健なイスラム教徒たちです。彼らは、片やイスラム過激派運動から間接的に、片やフランス極右翼から直接的に攻撃の的となっているのが現状です。

フランスの無神論者アテ Athée

前項でフランスにおける各宗教の割合を紹介しましたが、その中で特に明示しなかったのですが、「無神論者」がいます。アメリカの世界世論調査(Gallup)によると、無神論者数の最も多い国は、中国、次いで日本、チェコ共和国、そして第4位にフランスとなっています。とりわけ、フランスでは2005年~2012年にかけて、無神論者の割合が14%から29%まで急増したと同世論調査は答えています。

 フランス革命の亡霊

しかしながら、ほとんどのフランス人は出生とともに洗礼を受けるのが普通なので、フランス人のアテといっても、一応多数派のカトリック教の伝統を重んずることを忘れていません。しかし、特にカトリック信者としての勤めをきちんと実行することがない、というのがより現実的な見方でしょう。
この背景には、正教分離原則を厳格に守る姿勢が見られますが、私の意見では、どこかでフランス革命の亡霊が後ろで糸を引いている?という気がするのですが・・・。

実は宗教の影響は少ない

いかがでしたでしょうか?フランスも日本と同様無神論者の多い国で、あまり宗教の影響の少ない国のようですが、最近のイスラム過激派運動の激動をきっかけに、眠っていた宗教の重さが突如表に現れた、というのが現在のフランスにおける宗教の現実かもしれません。