かつては負け犬が遠吠えすると言われた国際結婚。ご縁があって一緒になったものの、結婚前まで全くの異文化で育ち、別の言語体系を持つ人間とひとつ屋根の下で過ごしていると様々な光と闇が生じます。当方、北米産まれの夫とオセアニアに暮らして結婚十年目。憧れだけで国際結婚に踏み切ろうとしている貴女の為に、老婆心ながら、自らのバツイチ失敗から得た教訓を伝授いたします。
コミュニケーション
1条、ボディランゲージが通用するのは新婚二年まで
「言葉が通じない=ミステリアス」と、ポジティブに解釈して有頂天になってよいのは、出会ってから一年くらいでしょうか。「言葉で足りない分はボディランゲージで補うの(赤面)」と、暴言して許されるのは新婚二年未満、しかも若いカップル限定です。
怖いことを言うようですが、国際結婚三年目からは二人できちんと話し合い解決していかなければならない「試練」がやってきます。
それはズバリ、夫婦の会話です。
男たるもの、下心のあるラブラブ交際期間こそ相手の語学を習得しようと努力するイキモノですが、通常、結婚後は釣った魚には餌をやりません。つまり、夫婦の共通語は妻側の努力や負担が大きくなることが予想されます。
2条、夫婦長持ちの秘訣は会話が命
ドラマなどで長年連れ添った老夫婦が海外のホテルのレストランでお互い無言で朝食を食べているシーンを見たことはありませんか?
恋愛中はあんなにも盛り上がった会話が最近どうも続かない、気がついたら会話が子供中心に、等など、夫婦間の会話の倦怠期は誰にでもやってきます。幸か不幸か女性は環境適応能力が高いので、貴女はそんな不自由さにもやがて慣れていくでしょう。多少お金を使っても構いませんから、お互いに愛があるうちに夫の言語を完璧に習得してください。わたしの知り合いはこの努力を怠ったために夫婦間の会話はブロークン英語がメイン。喧嘩のたびに文法を修正され、本題に辿り着くころには彼女は疲れ果てて諦めることが多いと言います。悔しいですね。
メールや電話の遣り取り、日常会話はともかくとして、喧嘩の時も相手の言語で、となるとフェアではない気もします。せめて、疲れたり怒ったりしたときは日本語を使いたい~~~、と貴女は不満に思うかもしれません。でも、それが国際結婚なのです。そのうち夢で寝言を言うのも相手の言葉になればしめたもの、今度は日本語を忘れないように読書やNHKワールドプレミアム等で補うことをお忘れなく。帰国した際に、言葉が妙な日本人になっている恐れがあります。
3条、異文化圏での笑いのツボは異なる
国際結婚で「これはかなりキツいわ、まいったわ!」と言われるものの中に、同じジョークで笑えないというのがあります。
人類が皆笑うであろう普遍的な可笑しさを除けば、西洋と東洋、地域差、ジェネレーション、文化や教育や言語によって笑いのツボが違うのは当たり前。顔だって同じテレビや映画を観ていても笑いの時差が発生しますし、「あるある」という共感のツボも当然違います。はっきり言って「ご当地あるある」は国際結婚では諦めましょう(笑。
イギリス系の夫を持つ或る知人は、結婚当初は語学力も語彙も少なくあまり気づかなかったものの、徐々に英語力が育つとともに、夫の知識をひけらすようなユーモアセンスが鼻に付くようになり、英国人特有の皮肉屋でシニカルなジョークに嫌悪感を覚えるようになったと言います。
4条、笑いはコミュニケーション最大の武器、と心得るべし
人類にとって最大かつ最強のコミュニケーションは「笑い」です。文化によってツボは違えども、笑いあるところに諍いはありません。アクセントやイントネーション、お国柄には目を瞑り、万人が笑える悪意のないユーモアセンスを磨きましょう。
同じ屋根の下で過ごす夫婦が冷え切らないためにも笑いを潤滑油としてうまく生活に取り入れましょう。ユーモア、ウィット、ジョークなどという言葉と置き換えられますが、「お笑い」まで達すると芸になりお金を取れます(笑。
国際カップルはたとえツボを外しまくっても構わないから、くだらないジョークを楽しみましょう。そして、このお互いの違いを愉しむ姿勢こそが長きに渡って求められます。
ハーフの幻想
5条、ハーフ=優性遺伝、の神話は幻
さて、芝生の庭付き一戸建てに住み、憧れの海外生活が始まりました。可愛い子どもも生まれ、貴女は幸せいっぱいです。親の組み合わせにもよりますが、概してハーフは可愛く写真写りもよく、日々成長する姿を育児ブログにアップすれば日本の爺婆も喜び、かつての同僚や友だちに対しても鼻が高いでしょう。
子どもが小さい頃は日本語も喋るし親の言うこともきくし、親ばか機能も手伝って、この子は天才か神童じゃないかと妄想しはじめたりもします。冷静に考えれば恐ろしいことですが、国際結婚に限らず誰にも発生する一過性の麻疹(はしか)みたいなものです。
ハーフの子は日本では可愛いと言われたりもしますが、海外では普通。または地味な部類。育児ハイもいつまでも続きませんから、親が凡人なら子どもも十人並みだとやがて客観的に見られる日がきます。
ここで、問題が生じます。
6条 ハーフ=バイリンガル、の神話は嘘、と心得るべし
子どもが日本語を喋らない、こちらからは日本語で喋っても返事は現地語で返してくる、そんなバイリンガルの夢あわや崩壊!の一大事です。小学校低学年くらいまでは言うことをよく聞く神童だったりしたんですが、ね。
まあ、ちょっと考えてみれば、現地の学校に通うようになれば現地語が育つのは当たり前。漢字ドリルや通信教育などで国語教育に力を入れている親御さんはともかく、習わなければ子どもは憶えません。きちんとした会話や読み書きができるには、貴女が日本の小中学校の国語、高等学校の現国で習得したと同じ分量の日本語教育が必要だと気づくはずです。
親の考え方にもよりますが、バイリンガルとして国際社会で活躍する可能性以外にも、日本語の継承は人格形成の上でとても意味があるように思います。日本人のDNAを持つ子どもは必ずいつか、自分のルーツを知りたくなるものですが、そのときにカタコトの日本語でしか意思の疎通が取れないのは残念ですね。貴女が普通に喋っている日本語が実は大変難しい言語で、海外では「継承語」としてきちんと学問しなければ体得できない語学なのだと肝に銘じるべきでしょう。
海外では主婦はあまくない
7条、海外では、専業主婦=絶滅危惧種
貴女が住む国が資本主義国家である限り、恋愛中はともかくとして結婚後は「お金」は避けては通れない問題、経済は家庭の基盤です。
子育てが一段落した今、貴女はいったい何をして生計を立てますか?
この問題は意外と欧米系の夫に多いのです。曰く、
「うちのママも子育てが終わったら即、社会復帰したよ。君も家にこもっていないで社会の役に立つ努力をしたら?」というもの。基本的に、欧米系夫は育児や家事に協力的ですが、その分、夫婦共働きを当然のものとして捉え、妻にも希望するものなのです。
男女共同、仕事も家事も育児も責任はハーフ。預貯金が潤沢にある場合とカツカツな場合では開始時期に差こそあれ、海外夫は、子育てが一段落したら即、妻にも就労を要求するものと思って間違いありません。ちなみに、うちの夫(北米系)はいつまでものほほんと家にいる妻を見かね、パソコンの上にさり気なく就職情報サイトの広告記事などを置くことがあります。笑
8条、主婦のパートさん募集はありません
怖がらせるようですが、海外でも通用する特技や技能をお持ちの方は実は少ないもので、現地の風習や語学を習得してからやっと現地人と同じスタートラインに立てると思った方がいいです。結婚前は日本でいわゆるOL事務職をしていたような場合、現地での就労はかなりハードになることが予想されます。
お住まいの近くに日本人や日本語に特化した仕事先があるような都市部ならともかく、田舎の地方都市ではネイティブ並みの語学力がない限り、仕事は選んでなんていられません。主婦の仕事探しは時間も制限されるし、日本ではあんなにたくさんあった主婦のパート募集は海外にはないと知るべきでしょう。
9条、主婦も自分の居場所を確保せよ
専業主婦は肩身が狭いだけでなく、残念ながら家庭内では飼い犬か家庭菜園で育てている野菜の他には貴女の愚痴を聞いてくれる相手はありません。
成長した息子は友達と遊ぶ方が楽しく、思春期の娘からは鬱陶しがられ、「ママも働けば?」光線をガンガン浴びせられ、働き盛りの夫は仕事が忙しく、住宅ローンを負担してほしいので顔さえ見れば再就職を催促します。ひきこもりキッチンドランカーになる危機感から焦りまくって職を探しに町に飛び出したものの、やっと見つけた仕事はブラックパートだった、ということもあります。
相談できる相手を見つけましょう。仕事に限らず、習い事でも趣味でもいいのです。芸術や音楽など自己表現する場所、ママ友や気の置けない仲間とのティータイム、犬とのお散歩もいいでしょう。家庭以外に自分の居場所を確保することは、孤立しがちな海外に置いて、きっと貴女の心強い拠り所になります。
最後に、私の率直な意見
10条、国際離婚は極力回避と心得るべし
最期になりましたが、二度の国際結婚と一度の離婚を経験したものとして、できるだけ国際離婚は回避すべきということは声を大にして言っておきます。
子どもがいれば尚更のこと、貴女が思っている以上に、母国以外の国でシングルマザーを張るのは大変なことです。日本のように妻が夫から慰謝料を貰うというケースはあまり聞いたことはありません。特殊な例でもなければ、母親だけに親権が譲渡されたり、元夫から月々の生活費を受け取ることもありません。
夫婦で築いた一切合財のものを折半し、自分名義の車を買い、居を構え、働いて食い扶持を確保しながら、弁護士と話し合い、心が折れそうになる作業を独りでこなします。国によっては、子供を日本へ連れて帰れないように裁判所でパスポートを預かる場合もあります。スムースに離婚が成立したとしても、子育ては折半で一週間ごとに交替がベース、養育費も折半です。泥沼が続くとお互いに疲れ果て子どもは深い心の傷を負います。
「違い」を愉しむことが長持ちの秘訣と心得るべし
結婚生活はお互いに興味を失い会話を怠った途端に崩れ出す砂の城みたいなもの。長期にわたって同じ価値観を持ち続けることなど絶対に不可能です。まして国際結婚ともなれば、もともと価値観も文かも言語も違う相手との結婚です。仕事や家庭以外にも趣味や自己表現など心の拠り所を持ちましょう。夫婦はお互いの違いをネタに冗談を言ったり、相手を追い込まないよう「いい加減」なくらいがよい加減なのです。夢がないようですが、国際結婚をご予定のお嬢様方は深呼吸をしてから、ぜひ冷静に頭を冷やし、十年、二十年後の長期プランを立ててから、海をお渡りくださいますよう、老婆心ながら。
もっと色々な話が聞きたいです。