ヨーロッパは、どの街もそれぞれに歴史が深く美しいので、さてどの街が一番良かったのかを選ぶのは難しいものです。私は、ヨーロッパは北はオスローから、南はアンダルシア地方のグラナダやセルビアまで、ほとんどの主要都市へ行きましたが、どこもそれぞれにとても魅力的な街でした。しかしながら、仕事で行くならともかく、個人的にもう一度行きたいと思うところは、後にも先にも一つだけ、ヴェネツィアです。(「ネ」にアクセントを置くとイタリア語っぽい発音になります。)
突然、どうしても無償にまた行きたくなる街、何度行っても初めて行った時のような感動にあふれる街がヴェニスなのです。
さて、どうしてなのでしょう?どうして、ヴェニスはこんなにも魅力がいっぱいなのか、今回は、何度も行きたくなるヴェニスの魅力を紹介したいと思います。
ヴェニスの魅力
私は、通算ヴェニスに5回行きました。そして、行くたびにあまりにも美しいので、いつもため息をついて帰ってきます。ヴェニスの魅力はまず、何といっても「水」でしょう。「水の都」と呼ばれている通り、150もの運河がヴェニスの街中を縄目のように流れています。車が通っていないので、移動はすべて「ヴァポレット(水上バス)Vaporetto」またはヴェニスのトレードマークともいえる「ゴンドラGondola」です。車の騒音がない街というのは、経験してみないとちょっとピンとこないかもしれませんが、一度経験すると、私たちがいかに車社会の中にどっぷりつかっているのかを、臨場感をもって理解することができるはずです。
1人で歩くのが1番
さて、本当にヴェニスを知りたいなら、歩くのが一番。数歩で渡れる小橋があちらこちらに架かっていて、橋を渡る度に、さて次はどんな所に行きつくのかドキドキします。まるで、小さな劇場に足を踏み入れたような感覚です。そして、どの劇場も独特な雰囲気をかもし出しています。また、迷路のような路地が蜘蛛の巣のように張り巡らされていて、さっきまであんなに観光客で賑わっていたのに、突然気がついたら誰もいない静かな街角にポツンとひとりで立っていた、ということが何度もありました。
という意味では、ヴェニスへの旅は1人旅 (多くとも2人まで)をお勧めします。団体の観光客でいつも賑っているヴェニスですが、この街は独りになって当てもなく街の中に溶け込んでしまわなければ、その良さはわからないような気がするのです。
ヴェニスの見どころ
ここではヴェニスに行ったらぜひ訪れてほしいエリアをしょうかいします。ただし、あくまで私の個人的な趣味となりますので、あなたに合うか合わないはわかりません。
サン・マルコ広場 Piazza San Marco
「世界で最も美しい広場」と言われているヴェニスの代表的な観光スポットです。街の中心でもあるので、どうしても通るところです。サン・マルコ広場の特長は、確かに繊細な美しさにあるのですが、その美しさの理由は、西洋と東洋の美が微妙に折り重なって造られた広場だからだと思います。ご存知の通り、ヴェネツィア共和国は10世紀頃から、「東洋への玄関」とも呼ばれたほど東洋貿易で栄えたところです。マルコ・ポーロの「東方見聞録」は、このようなヴェニスの特長がなければ生まれなかったに違いありません。サン・マルコ寺院(Basilica di San Marco)を観ればわかりますが、グラナダのアルハンブラ宮殿を彷彿させる繊細な彫刻建築は、西洋のものというよりも中東のモスク建築を想念させるものがあります。
私は、この広場の目印ともいえる高さ100メートルにのぼる鐘楼(Campanile di San Marco)のすぐ下に座りこんで、夕暮れに落ちていくサン・マルコ広場をいつまでも長々と眺め続けたことがあります。2時間ぐらいはいたでしょうか?本当に時間を忘れるひと時でした。
またこの広場には、私の特にお気に入りのカフェがあります。ヴェニスで最も古いカフェ・フローリアン(Caffè Florian)です。中に入ると思わず、時間を超えて中世のヴェニスに舞い戻ったような感覚に襲われます。床・壁・天井に至るまで、あらゆるところにイタリアの美意識が結集した息を飲む素晴らしい内装に圧倒されるでしょう。ここで飲むカフェ・ラッテ(Caffè Latte)の美味しさは、また一段と格別です。
ため息橋 Ponte dei Sospiri
この橋の言い伝えは、ふたつあります。ひとつは投獄される前にこの橋を渡る囚人が、最後に目にする美しいヴェニスの光景にため息をつくというものと、もうひとつは、ゴンドラに乗った恋人同士が、日没にこの橋の下でキスを交わすと、永遠の愛を約束されるというものです。それができない片思いの恋人がこの橋を見てため息をつくのです。
ため息橋の牢獄は公開されています。私はドゥカーレ宮殿からこの橋を渡ったとき、僅かに小さく開いた小窓からヴェニスの街を覗くように眺めました。当時の囚人たちの想いが伝わってくるようで、思わず私もため息をついてしまいました。また、ゴンドラに乗ると、この橋の下を通るのが観光ルートの定番コースとなっていますので、片思いの方は思いっきりため息をついてください。
リアルト橋 Ponte di Rialto
グランド・カナル(大運河)には4本の大きな橋が架かっていますが、リアルト橋はそのひとつで、ヴェニスで最も有名な橋です。この橋の界隈は、主にショッピングをする所です。というのも、橋の上にアーケードがあり、様々な店があるばかりではなく、橋の周辺がショッピング街となっているからです。
ここで私は、ヴェニスの有名なガラス細工、ヴェネツィアン・グラス風の小さな天井ランプを買いました。リアルト橋より少し歩いた小さな路地にある古びた骨董品屋でした。何となく中を覗くと、天井から壁、床のあらゆるところに、あるある様々な物、物、物・・・。その中に埋もれるようにひとりの老人が座っていました。恐る恐る中に入ると、入り口に架かっていた鈴がチリーンとなって、老人がこちらへ顔を向けました。すると、びっくり!あのピノキオ物語のジェペット爺さんがにっこり笑いかけているのです。何となく赤みかかった鼻の先の眼鏡がずれ落ちそうな白髪のおじいさん。サロペットのすす汚れたズボンに手を突っ込んで立っています。あのジェペット爺さんのイメージそのものです。片言のイタリア語とフランス語の会話で、私が天井からつるされていたランプを指で示したときの、彼のにんまり笑顔が忘れられません。いかにも得意そうにうなづいて、そぉーと天井から下ろして私のために見せてくれました。もちろん、即刻買い求めました。今でも、そのランプは私の家の天井からぶら下がっています。それを見る度に、あのジェペット爺さんの笑顔を思い出しています。
リド島 Lido di Venezia
「ヴェニスに死す」の舞台で有名なリド島は、サン・マルコ広場からヴァポレット1番線で15分ほどで行けます。対岸から眺める本島の美しさをカメラに収める絶好の場所。ヴェニス本島のメイン観光地とはかけ離れた落ち着いた雰囲気のところです。ここはまた、ヴェニスで唯一の海水浴場がある所です。海岸をのんびりと歩きながら、遠くに見えるサン・マルコ広場の鐘楼を眺めてみてください。何とも言えない美しさに、またしてもため息が出てしまいます。
永久ではない永遠の街、ヴェネツィア!
いかがでしたか?ヴェニスの旅のほんの一部でした。まだまだ他にもヴェニスには紹介した所がたくさんあるのですが、またの機会にします。
パリがフランスではないのと同じように、ヴェニスはイタリアではない、と断言できるほど、この街には独自の魅力と神秘が溢れています。いつかは消滅すると言われている蜃気楼の街、ヴェニス。この街の魅力は、「永久ではない」というところにあるのかもしれません。私はヴェニスへ行くたびに、これが最後の見納めという気持ちで行きます。か弱い束の間の夢の街だからこそ、ヴェニスの魅力は永遠なのかもしれません。
なくなってしまう前に、機会を見つけてぜひヴェニスの旅をご体験ください!
次回はパリからヴェニスまで鉄道で行ってみたいと思っています。パリのリヨン駅から夕刻出発、翌朝ヴェニスのサンタ・ルチーア駅に到着するという夜行列車の旅です。「朝目覚めたら、そこはヴェニスだった」なんて、とてもロマンティックだと思いませんか?
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