労働契約書はガイドライン!?最後に頼るべきはやっぱり自分!

いつの時代もどの国であっても、労働契約書というものは非常に大切ですよね。口頭で説明されるだけではなく、文書になっているということに意味があります。しかし、たとえ文書になっていたとしてもあまり意味がないケースもあります。私は夫が中国の大学で教えていたため、しばらく中国の北京で生活をしていたことがありますが、そこでの労働契約書もあまりあてにはならないものでした。ここではそんな契約書について紹介します。

労働契約書は基本的にガイドライン

 契約書は労働者だけが守るもの?

パイレーツ・オブ・カリビアンで、バルボッサ船長が「パーレイは決まりではなく、どちらかというとガイドラインだ」というシーンがありますよね。中国における契約書も同様です。労働契約書は本来ならば守られるものでなければいけませんが、少なくとも中国における契約書は「契約」ではなく「ガイドライン」だと思います。

ちなみに、夫はその契約を必ず守るようにと言われていました。半年に何単位の授業を教えなければいけないのか、何本の論文を出版しなければいけないのか、かなり厳しく「契約書に書かれている条件は守ってくださいね」と言われていました。

 守られない居住環境

その一方で、契約書に「雇用側が提供する」と書かれていた内容についてはかなり守られていなかったように思います。契約書には「研究者が研究に集中できる居住環境を用意する、あるいは居住環境を得られるように協力する」と書かれていました。しかしそれは少なからず最初の2ヶ月は守られませんでした。

私たちが中国に行くまでは「キャンパスのアパートに住めるようにするから大丈夫」と言われていたのですが、中国に向かう数日前、「実はあなたたちが住む予定のアパートは改装中でしばらく住むことができない、だからホテルで生活してほしい」と言われたのです。当然ながらホテル代を出してくれるわけではありません。中国の人は「外国人はお金持ち」と思っている傾向があり、何日でも何週間でも何ヶ月でもホテルに住めると思っているようでした。そして、宿泊費も提供せず、ホテルに住んだらどうかと言われるのは私たちだけでは無いようです。
そんな事はできない、こっちはアパートがあると言われているから安心していたのにいったいどうなっているんだと夫が連絡したところ、「しばらく人が住んでいないアパートの部屋があるから、汚れているけれどそこで生活をしたら良い」と言われました。確かにそのアパートはキッチンの窓は割れており、キッチンやシャワールームには電気がなく、全体的に埃だらけでかなり汚れていました。

しかし、中国に行く直前までアパートについて何も知らされていなかった私たちには選択の余地はありませんでした。また、キャンパス内のアパートであれば家賃も安く済みますし、キャンパスの外でアパートを借りるという事は考えられなかったのです。しかし、その問題の改装中のアパートにいつ入居できるのかと聞いても「多分2日3日で入れる」「多分来週までには」「多分来月までには」という状態が続き、どのようなアパートか分からないために家具などを買い足すこともできませんでした。

そのアパートにはWi-Fiもなく、キッチンも使えるような状態ではなかったため、朝目を覚ましたらWi-Fiが使えるキャンパス内の喫茶店や学食にパソコンを抱えて出かけ、ほぼ1日中そこで時間を過ごすような状態が続きました。アパートに住んでいるというよりはアパートには寝るために戻るだけで、基本的に喫茶店や学食で暮らしていたように思います。このような生活が2ヶ月近く続きました。

 守られない中国語の授業

雇用計画書には「研究者には中国語の授業を無料で提供する」と書かれていました。夫はもともと言語能力に長けていますが、中国で仕事をしながら中国語を無料で勉強できるなんて嬉しいと喜んでおり、さらに配偶者である私も一緒に無料で授業を受けることができるということを確認し、一緒に中国語を勉強しようねと言っていたのです。

しかし、いざ行ってみると研究者のための中国語の授業はそもそも存在しませんでした。中国で仕事をする外国人研究者は少なからず中国語に興味を持っているため、あくまでも中国語の授業は検討中である、しかし実行にまでは至っていない、ということだったのです。契約書の内容とは矛盾があります。

すると数ヶ月後、スタッフが夫に「留学生が受ける中国語の授業に参加したら」と助言をしてきました。そこでもちろん夫は興味をもし、私も一緒に中国語の授業に参加するようになったのですが、留学生向けの中国語の授業は開始時間が毎朝8時で、特に自分自身も仕事をしなければいけない夫は毎日参加することができませんでした。また、言い方は悪いですが勉強だけしていれば良い留学生に向けた授業ですから、かなりのハイスピードで授業が進んでいきます。そのため、最初こそ頑張ったのですが1回授業に行けないとかなり遅れをとってしまい、なかなか大変でした。

そして半年が経ち、1学期が終わる頃には教科書の半分が終わりました。そこでとんでもないことを聞いたのです。私たちは初級クラスにいたのですが、次の学期には教科書の残りの半分を勉強するのかと思ったら、教科書の残りは自分で勉強し、来学期からは新しい教科書を購入して中級に行くようにと言われたのです。教科書といっても200ページほどある教科書でしたから、100ページほど自分で勉強しろということでした。そもそもそれだけ自分で勉強出来るなら中国語の授業になんていきません。仕事もしなければいけない、休暇のうちに100ページなんて勉強できるはずがない、と夫が先生に聞いたところ、「だってこの授業はあなたたちのものじゃないから」と言われたのです。

留学生の多くは半年、あるいは1年の単位で中国にやってきます。そのため半年だけ留学をする学生であれば半年授業を受ければ良く、1年留学をする学生は次の半年に自分で好きなレベルの授業を選んで参加します。向上心のある学生であれば次のレベルについていくことができますが、留学中に遊んでばかりの学生であれば次のレベルについていくことができず、全然中国語がしゃべれない、ということもあるようでした。
しかし、夫にしてみれば裏切られたような話です。契約書には中国語が勉強できると書いてあったにも関わらず、そしてそれならばありがたいと思っていたにもかかわらず、そのような授業は用意されていなかったばかりか唯一の選択肢として参加した学生の授業では「あなたたちのものではない」と言われてしまったのです。そしてこのような経験をしている研究者は多いようでした。

ちなみに中国語の授業は大学によって大きく異なります。例えば中国国内においてトップレベルの北京大学と清華大学では「むしろ外国人研究者には中国語を覚えてもらわなければ困る」という姿勢でいるため、外国人に対してはかなり濃い中国語の授業が用意されていると聞いたことがあります。

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契約書の更新について

 外国人は3年ごとに更新する

少なくとも中国国内の大学において、外国人教員の終身雇用はまずありえないようです。外国人教員の雇用は3年ごととなっているケースが多く、少なくとも数年ごとに契約書を更新しなければいけないようでした。

そして3年間働いたら、契約書を更新するにあたり審査される場合があります。きちんと授業を教えているかどうか、論文を出版しているかどうか、などという話し合いがなされ、それで許可が降りれば再度3年間の契約書が出されますし、もしも条件を満たしていない場合は基本的に1年間契約が伸びるようでした。

 直前に契約書の更新が取り消される!?

これは以前、他の学部で仕事をしていたフランス人の先生から聞いた話です。この大学では、外国人教員の契約書に関してはその教員が所属する学部学科ではなく、その上に位置する大学の上層部が契約書の更新を決定するということでした。言い換えれば、学部学科がどれだけその教員を再度雇用したいと思っていたとしても、学部学科が交渉する余地を持たない大学の上層部がその教員を雇用しないと決定することがあり得る、そしてその決定に対して学部学科は従うしかない、ということだったのです。

彼女は3年間の契約を終えましたが、学部長からこのような契約書に関するシステムの説明を受けた上で、論文の本数が足りていないからおそらく大学側は3年の更新を認めないだろう、ただしあなたは学生から人気がある、だから1年間の更新は可能だ、と言われたそうです。それが5月末の事でした(ちなみに中国はアメリカなどと同じく、6月に学期が終わり、9月から新学期になります。彼女のビザの期限は8月末でした)。

彼女は夏休みはフランスに戻る予定だったのですが、なかなか新しい契約書を受け取れなかったためかなり心配していました。すると6月末に所属学部から「契約書は6月末には完成する、完成したら署名してスキャンをメールで送ってくれればいいから好きな時にフランスに戻って構わない」と言われたそうです。そしてフランスに戻った翌日、所属学部から「契約書の更新の話はなくなりました」とメールを受け取ったのです!

 予定が全て狂う

彼女はフランスで契約書に署名し、新学期が始まる前には中国に戻る予定でいました。彼女のビザは8月末に切れる予定でしたから、中国に戻ったらすぐに引越しの準備をし、フランスに帰ってこなければいけなくなってしまったのです。もしも中国にいる間に契約書の更新の話がなくなっていたら、夏休み中のフランスの旅を取りやめ、引越しの準備をすることができました。そして旅を取りやめることにより、余分な出費も少なからず防ぐことができたでしょう。それ以上に、あと1年はこの大学で仕事ができると思っていた彼女の計画は完全に狂ってしまったのです。

この時私たちは中国にいましたので、彼女が中国に戻ってきてから引越しの準備を手伝いました。実は契約書の更新の話がなくなった後、所属学部から「もう一度、契約書の再申請をしてみて欲しい、私たちはあなたを失いたくない」と言われたそうです。その契約書の再申請が一体どのようなものなのか分かりませんが、「自分を雇用するメリット」などを明確にして再申請をすることにより、もう一度検討してもらえることが出来るような感じでした。

 再申請はいつ見てもらえるのか

しかし問題はこの時点で大学自体が夏休みであるということです。大学の上層部にどのような人がいるのかは知りませんが、この人たちが夏休みに入っていれば申請書に目が通される事はないでしょう。実際に彼女は契約書が更新されないと言われた6月末から申請書を書き直し、7月頭にそれを提出したそうです。そして8月に中国に戻ってきましたが、その時点では何の音沙汰もなかったそうです。所属学部の人からは「上層部の人たちが夏休みに入っているから確認が遅れている」と言われたそうですが、そもそも契約が更新されるかどうかもわからない決定を長々と待つわけにはいきませんよね。

そこで彼女は8月半ばの15日を期限と設定していました。それまでに何の連絡もなければ自分は中国を出る、ということにしたのです。実際に7月頭に再申請したにもかかわらず、彼女は何の連絡も聞くことがありませんでした。所属学部からは「もう少し待ってほしい」と言われていたようですが、最終的には自分で「私は中国を出る」と決定したのです。非常に残念でした。

 口頭の言い分を信じてはいけない

この時彼女に言われたのは、文書の契約書であっても守られないのだから、口頭で言われた事は信じてはいけない、との事でした。この時夫は仕事を始めて2年、契約満期まであと1年、というところでした。そして私は妊娠していましたので、彼女から「私は独身だし子供もいないから何とかなるけれど、あなたたちは来年には子供がいるんだから、しっかり考えなければいけない」と言われたものです。

確かに、雇用される側にも人生があり、場合によっては家族がいます。急に「契約書は更新しません」と言われても困ります。幸い、私たちはこの1年後、選択肢を持った上で中国を出ることができました。しかし常に何か起きてもいいように準備はしていましたので、このような最悪のケースを知っておいて良かったとも思っています。

自分の人生は自分で構築を

日本の企業に勤めていて、中国の支社に行く、出向する、などの形であればこのような心配はないでしょう。しかし、中国で雇用される、外国で雇用される、などという場合はその国の常識で物事が進んでいきますから、時に思いがけないことが起こるということも考えておかなければいけません。

そして最終的に自分の人生を構築するのは自分です。今は日本国内でも終身雇用が崩れつつあると言われていますが、不安になるばかりではなく、何があってもいいように準備を怠らず、常に前向きでいることも大切だと思いました。

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