2002年元旦、EUの共通通貨ユーロが発足した日、街中のATMにフランス人が殺到したのが昨日のようです。あれから早や15年が過ぎた現在、EUに参加する価値を改めて自問する人が増えています。イギリスのEU離脱(Brexit)現象は、その典型的な出来事ではないでしょうか。今回は、EU参加のメリットとデメリットという観点に絞って、レポートします。
メリット
私が個人的に体験したEU参加のメリットは、何といっても欧州圏からフランスへ入るときの空港検査の簡素化でした。例えば、欧州加盟国圏内を旅行した時、外国人である私でさえ所持品の検査もなく空港の税関を通過ができたときには、思わず内心、「EU万歳!」と叫んでしまいました。以前は、外国パスポートで欧州圏内を移動するとき、いちいち外国パスポート所持者専用の空港検査を通らなくてはならず、中国人やアメリカ人などの観光客が多いシーズンには長い列ができて、とても不便でしたが、今では何もなくスムーズに移動できるのでとても便利です。
ユーロは便利
次にメリットとなるのは、やはりユーロという共通通貨のおかげで、フランスでもイタリアでもスペインでもドイツでも、とにかくEU加盟国圏ならどこでも両替の必要がなく、気軽に買い物ができることでしょう。それに、国によって同じ製品の値段の比較ができるのもメリットのひとつだと思います。因みにたばこを買うなら、絶対にフランスよりスペインで購入されることをお勧めします。
もともと欧州共同体の目的は、経済でした。つまりアメリカのドルに対抗して欧州に有利な強い通貨を作ることが目的だったのです。今では、ユーロが強くなり過ぎて、効用が逆になってしまい少し問題ですが、とにかくアメリカのドル経済に左右されない安定した世界経済を保つという目的は達せられたのではないかと思います。
統一は容易ではない
しかしながら、EUは経済だけで成りたっているのではなく、他にも社会、福祉、司法、教育、環境、流通、労働と数々の要素があり、これらについて各国間の統一性がまだまだ欠けるため、15年経過した今、様々な問題が表面化してきています。数年前にギリシャとドイツの関係がギクシャクしたのも、こういうところに原因があります。当然、経済的にギリシャはドイツと並ぶことが不可能なので、いつまでもドイツにおんぶにだっこという状況続きだからです。
では次に、EUのデメリットについて触れてみましょう。
デメリット
先のドイツとギリシャの関係に見られるように、加盟国内で経済格差があり、統一性のない不均一な経済が生まれ、ドイツのような豊かな国に大きな負担がかかることがまず最大のデメリットです。
安い労働力
また、現在最も問題となっているのは、加盟国内におけるソーシャルダンピングです。例えば、ポーランド人の配管工は、ポーランドの社会保障制度に基づいてフランスで働くことができるため、フランス人を雇うよりもコスト・ダウンして雇える利点から、フランスの雇い主はポーランド人を優先しようとする現象が起こり、そうでなくても失業問題に頭を痛めているフランスにとって、これは全く不利な状況となります。想像してみてください。例えば、日本でフィリピン人が自国の社会制度や賃金制度のまま日本で働けるという場合、雇用者は当然賃金の高くつく日本人よりも安く雇えるフィリピン人を選ぶ傾向が強くなるのは間違いないですよね。
治安の悪化
最後に大きな問題となっているのは、加盟国圏内での物や人の移動が自由となったため、犯罪者や麻薬などの取り締まりが緩和し、犯罪が増加したというものです。それに伴い、ヨーロッパで起きている様々なテロ事件はその証拠だと主張する極右翼の反EU主義が増えているのも無視できません。
1つの共同体を目指して
いかがでしたか?簡単ですが、EU参加に伴うメリットとデメリットでした。
28ヵ国という異なる歴史、文化、言語をもつ国々が、EUというひとつの旗の下、同調し合わなければならないのですから、確かにそんなに甘いものではありません。今後、EU各国は右往左往しながら紆余曲折の道を進むことになることは避けられないでしょう。しかしながら、だからこそ、EUは素晴らしいと信じる人たちも多くいます。数々の違いを乗り越えて、同じ頂上を目指していくその行程こそがEUなのだと信じる人たちです。私も、(異国人ですが)全く同感です。
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